前回の記事では、「社会変革と持続可能な収益は矛盾しない」という前提のもとに、なぜ今、投資のお金が利益だけでなくインパクトを求め始めているのかを見てきました。
今回は、その「翻訳機」が実際にどう使われているのかを、具体的な事例で見ていきます。取り上げるのは、SMBCグループが2024年8月に公表した「インパクトレポート2025」です。日本の大手金融グループが、なぜわざわざ自分たちの社会的な影響を開示したのか。そのロジックを理解することが、NPO・地域団体・個人が「なぜインパクトを言語化する必要があるのか」を実感するための、もっとも近道だと思います。
インパクトレポートとは
最初に言葉を整理しておきます。
インパクトレポートとは、組織が自分たちの活動を通じて社会・環境にどんな変化をもたらしたかを、ロジックモデルや定量指標を使って公表する報告書です。ESG報告書やCSRレポートとの違いは、「何をしたか」だけでなく「何が変わったか」のプロセスと証拠を示す点にあります。
SMBCグループは2024年8月、日本の大手金融グループとして初めてこのレポートを公表しました。
なぜSMBCは出したのか
同レポートに掲載されたCSuO対談で、髙梨雅之グループCSuO(最高サステナビリティ責任者)は経緯を率直に語っています。
「社会的価値創造について検討を重ねる中で、企業価値を高めることも大きな目的の一つという議論になり、インパクトが企業評価の新たな尺度に加わりつつある中、自社の取り組みをインパクトベースでステークホルダーに示す必要性を認識した」 髙梨雅之(SMBCグループ グループCSuO)
出典:SMBCグループ インパクトレポート2025、p.2
つまり、これは純粋な利他ではありません。インパクトの可視化が企業価値に直結するという判断です。元ユニリーバCEOで同グループのグローバル・アドバイザーを務めるポール・ポールマン氏も対談の中でこう述べています。
「ポジティブな影響の証拠が増えるほど、企業行動の変化が促進される。社会課題の解決に取り組み、それを外部に示すことは企業価値を高める」 ポール・ポールマン(元ユニリーバCEO、SMBCグループ グローバル・アドバイザー)
出典:SMBCグループ インパクトレポート2025、p.2
「インパクトの可視化が企業価値に直結する」という論理は、NPO・地域団体にとっても同じ構造を持ちます。企業に「投資家・社会への説明責任」があるように、NPO・地域団体には「助成機関・協働先・地域住民への説明責任」があります。インパクトを語る言葉を持つことが、信頼と連携の機会につながります。
レポートの中のロジックモデル
このレポートで特徴的なのは、各活動にロジックモデルが付いていることです。たとえばプロボノ活動のページ(p.23)では、次のような連鎖が1枚の図で示されています。
SMBCグループ「プロボノプロジェクト」のロジックモデル(インパクトレポート2025 p.23をもとに作成)
SMBCグループ「プロボノプロジェクト」のロジックモデル(インパクトレポート2025 p.23をもとに作成)
さらに指標も付いています。「参加者数 65人(FY24)」「支援団体数 11団体(FY24)」という具体的な数字が、抽象的な「社会貢献」という言葉に実体を与えています。このロジックモデルはNPO法人ソーシャルバリュージャパンによる社会的インパクト評価をもとに作成されており、第三者評価という客観性も担保されています。
出典:SMBCグループ インパクトレポート2025(p.23)、NPO法人ソーシャルバリュージャパンによる社会的インパクト評価をもとに作成。参加前の数値はレポート掲載グラフからの近似値。
評価結果は注目に値します。プロボノ参加者の82.17%が「プロフェッショナルとしての意識向上」を、61.93%が「働きがいの向上」を実感したというデータが出ています(同レポートp.23)。社会貢献活動が従業員のウェルビーイングにも直結することが、数字で示されています。
SMBCと放課後NPOアフタースクール——協働が生まれた理由
このレポートを読んで私がとくに注目したのは、SMBCが放課後NPOアフタースクールとの協働に至ったプロセスです。
ここで注目したいのは順番です。SMBCは「解決したい課題」を先に定め、その課題に最も精通した実践者を探しました。インパクトを言語化していたから、出会いが生まれました。
内閣府「社会的インパクト評価ツールキット」(p.44)にも、放課後NPOがロジックモデルを作成した効果として「プログラムの導入校の開拓につながった(対外的効果)」「事業・組織運営の改善ポイントが明確になった(対内的効果)」という両面が記録されています。
同じ言葉で語る時代に
「良いことをしている」だけでは、企業との協働は生まれにくい時代になりました。「どんなインパクトを、どんな活動を通じて、どう証明するか」を語れることが、持続可能な連携の前提になっています。